バイオエコノミー
脱炭素社会にむけたバイオエコノミーと農業-再生可能エネルギー生産との両立-

脱炭素社会にむけたバイオエコノミーと農業-再生可能エネルギー生産との両立-

柴田大輔先生 京都大学エネルギー理工学研究所 特任教授

第6回バイオエコノミー研究会 2021年11月30日

企業の社会的責任と生き残り戦略としてして温暖化対策、循環型社会への動きが加速している。
人類が生き延びるための経済として再生可能エネルギー、バイオエコノミー、サーキュラーエコノミーが台頭してきた。化石資源を持続可能な資源で代替、持続可能な資源を持続可能な形で使うことがセットになっている。
原油の場合78%がエネルギー源として使われ、プラスチックなどのマテリアルはほぼナフサ(22%)から作られている。脱化石燃料への移行には再生可能なエネルギーとカーボンニュートラルな炭素源が必要。この炭素源として植物バイオマスが必要となっている。
再生可能エネルギーの価格は2009年より急激に低下し、2015年以降では最も安いエネルギー源となっている。一方で導入に伴う国民の負担も増加している。現在では負担は標準的な家庭で1万円を超えている。
一方食料、衣類、木造建築物、石油代替製品は最終的に焼却、分解されて二酸化炭素に戻る。
世界のバイオマス生長量は年間800億トンである。これに対し世界の原油消費量は41億トン(ナフサ9億トン)なので代替は可能である。しかし石炭や天然ガスも含めた二酸化炭素の排出量は500億トンなので代替はかなり厳しい。
地球上のバイオマスはリグニン20-30%、セルロース50%、ヘミセルロース25-30%である。その他の5%に100万種類ぐらいの成分がある。これらの多様な代謝物を網羅的に分析する科学はメタボロミクスと呼ばれる。リグニン、セルロース、へミセルローズをナフサの代替としてうまく変換してやれば既存の化学産業が製品化することができる。
化石燃料経済は豊かさの一方で外部コストを無視し、負の遺産を作ってきた。負の遺産の解消が人類の存続に必要で、これがSDGsの根底にある。SDGsに対しバイオ産業・農業が貢献できる項目は多い。負を解消する仕組みとして再生可能エネルギー、バイオエコノミー、サーキュラーエコノミーが台頭。そして持続可能な産業/農業がある。これには公共調達(Bio Preferred)、補助金、国民理解、ESG投資、投資撤退、RE100が必要となる。例えば石炭火力発電からの投資撤退が近年活発になっている。気候関連財務情報開示タスクフォース:TCFD)も投資家の判断基準となってきた。これらの複雑な背景を理解する必要がある。
農業は他の産業と同等かそれ以上に環境負荷が大きい産業である。農業・林業は温室効果ガスの1/4を出している。メタンと一酸化二窒素の排出は主に農業が排出源である。日本の農業においても稲作が排出源の30%以上を占めている。水田土中や反芻動物の消化器官など無酸素の状態で有機物を分解させるとメタンが出る。窒素肥料をやれば脱窒の過程で一酸化二窒素が出る。そこで農学は持続可能な食料生産システムへの移行が求められている。その動きとしてバイオエコノミー(OECD, 2009)、バイオ戦略(内閣府、2019年)、Farm to fork (EU, 2020), 農業イノベーションアジェンダ(USA, 2020)、グリーンイノベーション基金(NEDO、2021)、みどりの食料システム戦略(農水省、2021)などが制定されている。みどりの食料システム戦略はEUやアメリカの真似だが、全くの準備不足で技術開発の困難が予想される。目標としているのはCO2ゼロエミッション、化学農薬50%削減、化学肥料30%削減、有機農業を25%まで拡大である。今まで日本では農学でこれらに真剣に取り組んできたわけではないが、知の蓄積には期待できる。自身としてはCO2のゼロエミッション化に取り組んできた。光波長選択性の透過型太陽電池を開発した。そして透過型有機太陽電池を使った施設栽培型複合農業の実験をしてきた。農耕地面積450万haにソーラーパネルを敷きつめると5.7兆kWhの発電ができる。日本の総電気使用量は1兆kWh/年である。耕作放棄地(農地の4%)に設置しただけでも総電力の23%を賄える。農業と発電を同時に行うことは付加価値を生む上で重要。農地の上にパネルを部分的に設置するソーラーシェアリングが広まってきているが、私個人としては農地の20%を発電所にし、残りの80%の農地の生産性この発電をうまく利用して向上させ、元の100%にすることの方が将来性があると思っている。ただし現状は農地法の大きな壁がある。新しい農業の形を模索するため主として京都大学の研究者、産業界とグリーンエネルギーファーム(農林水産分野の脱炭素化)構想を立てているところである。
再生可能エネルギーの導入は地域分散型社会を促進する。都市への産業・人口の集中はエネルギー効率がその方が良かったからだ。これからその逆の動きが加速する。これからの社会をどう構築しようか活発な議論が必要である。そのためにバイオエコノミー学会を設立した。学会を作ると男ばかりになる。そこでジェンダーバランスを保つため男女ペアで入会していただくことにした(その後の脱会は自由)。会費もなしで開催もバーチャルにする。若い人がいろいろなアイディアを出して次を考えていただきたい。

日本バイオエコノミー学会