バイオエコノミー
カーボンニュートラル社会の実装に向けた微細藻類ユーグレナの利用

カーボンニュートラル社会の実装に向けた微細藻類ユーグレナの利用

第7回バイオエコノミー研究会報告

2022年1月28日(金)

株式会社ユーグレナ 研究員 豊川知華さん

豊川さんは元々環境問題に興味があり、学部生の時は木質バイオマスのバイオリファイナリーに関する研究をしていた。大学院ではテーマを変え、緑藻クラミドモナス光合成のCO2濃縮機構について研究していた。クラミドモナスは単細胞生物でピレノイドというCO2固定酵素Rubiscoが集合した器官を葉緑体中に持っている。博士を取得後2020年4月にユーグレナ社に入社した。入社後は沖縄県の石垣島に赴任し、ユーグレナの食味の改善の研究に携わる。現在は横浜市のラボで宇宙藻類プロジェクトに関する研究を行っている。

ユーグレナ社は2005年12月に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功した東大発のベンチャー企業である。2012年に東証マザーズ、2014年に東証一部に上場し、現在のグループとしての売り上げは400億円規模となっている。社長である出雲氏がバングラディッシュの栄養失調問題の解決のために栄養豊富な食材を探そうと考え着目したのが微細藻類ユーグレナだった。ユーグレナは5億年以上前に誕生した植物と動物両方の特長を持つ微細藻類と言われている。高い二酸化炭素濃度に対する耐性を持ち体内に油脂を生成する。細胞壁がないので消化吸収しやすく、植物性栄養素と動物性栄養素の両方を持つ。研究は第二次世界大戦後から続けられてきたものの、食用として供給できるレベルの大量培養が実現されていなかった。創業メンバーの鈴木氏が石垣島で大量培養に成功し、機能性食品から商品群を増やしてきた。ユーグレナは種株をフラスコ培養してスケールアップするなどし、最終的に大型培養槽で培養する。これを遠心分離で回収し、洗浄、滅菌、熱乾燥などの工程を経て最終的に粉末が得られる。

ユーグレナ社のフィロソフィーは「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」であり、会社の拡大が社会問題の縮小となることとしている。研究の基本的な戦略として、バイオマスの5F(Food, Fiber, Feed, Fertilizer, Fuel)を視野に入れて研究開発を行っている。

Food:ユーグレナは59種類の栄養素を持つ。ユーグレナ属のみが生成する多糖類、パラミロンにより免疫力向上、生活習慣病改善の効果が認められている。パラミロンは人間にとって食物繊維と同様に消化吸収できないので食品の栄養素としての摂取カロリーにあたらない。一部の病原体と表面構造がよく似ていることが免疫賦活化の理由だと考えられている。ユーグレナは貯蔵多糖としてパラミロンを蓄積するため低カロリーと言える。炭水化物としてはほぼ0 kcal/g。ユーグレナ粉末の組成はおおよそ、炭水化物60%、タンパク質30%、脂質10%。光独立栄養条件で培養したときのユーグレナ粉末は約4 kcal/L。一方、従属栄養条件で培養すると終濃度が高くなるためユーグレナ粉末は約50 kcal/L。

Fiber:パラミロンからバイオプラスチック「パラレジン」を合成できる。これにより二酸化炭素が固定できる。ユーグレナは光合成をさせずに糖類などの有機物を与えて従属栄養培養するとパラミロンを高濃度で蓄積できる。パラレジンを扱うコンソーシアムとして2030年までに20万トンのパラレジン生産を目標としている。

Fuel:ユーグレナは酸素欠乏条件でパラミロン分解とワックスエステル発酵の代謝系が働く。これがケロシンや軽油に転換できる。ただし現在製造コストが見合わないので廃食油の転換と併せてバイオディーゼル、バイオジェット燃料を製造している。国際的なバイオ燃料の認証(ASTM)を得ている。現在125 kl/年の製造規模だが、2025年に商業プラントの完成を目標としており、25万kl/年の製造量が見込めるとしている。世界中におけるバイオ燃料の原料は廃食油が多く、また供給量の上限が決まっているため、いずれ廃食油の比率を減らし、ユーグレナの利用を増やす戦略である。今後はユーグレナの生産規模の拡大が課題である。大規模培養プラントへの出資者も必要。バイオ燃料の製造においては、日本では燃料等の製造は工業地帯でしか認可されないため適地が少ない。そこで海外での生産規模の拡大なども視野に入れている。バイオジェット燃料は世界的には実用例が増えている。バイオ燃料最大のNESTE社(フィンランド)はもともと石油精製の会社で牛脂やヤシ油を原料にしている。

Fertilizer:バイオ燃料に油脂を抽出した後のユーグレナの残渣はタンパク質を多く含む。これを発酵させて有機肥料の製造を進めている。佐賀の研究所では下水処理場から出てきた放流水、CO2、脱水分離液のNやPをユーグレナの培養に利用し肥料化の研究を行っている。

豊川さんは宇宙藻類プロジェクトに現在取り組んでいる。地球外の長期滞在のための物質循環システム。呼気のCO2や生活排水をリサイクルする仕組みとしてユーグレナの試験を行っている。