日本の森林管理とそれを担う林業事業体の組織マネジメント
楢崎達也さん氏 FOREST MEDIA WORKS㈱ 代表
第5回バイオエコノミー研究会 2020年1月24日
日本で伐られる木の8割は住宅用である。国内で使われる木材(丸太換算)は年間8000万立方メートルで安定している。製材工場が毎年500社ずつ減少している一方で巨大木材工場が稼働開始している。住宅用材は製材された後プレカット工場で細工される。木材のマーケットは、市場は飽和気味でコスト競争をするために、ここでも大型化が進んでいる。木材加工は産業として厳しい競争に晒され、合理化が進んでいる。
製材される木の6割は外材で、4割が国産材(2900万立方メートル)である。そのため木材価格は外材に左右される。海外からの輸入が減少すれば国内材の値段が上がり、輸入が増加すれば価格が下落する。木材を原木市場に出すまでの仕事は1次産業であり、森林組合と民間素材林業者がこの役を担う。これらを林業事業体という。個人山主で伐り出しをしている「林業家」の例は今日ごく僅かで、林業事業体が山主と契約して管理・伐採を行う形態が一般的である。
日本の林業は補助金なしでは成り立たない。間伐には行政から、計算すると約68%の補助金が支給される。つまり業界の主導権は補助金の出し手である行政が握っている状況になっている。補助金なしでも採算が取れている地域は九州南部の宮崎、鹿児島、熊本である。これらの地域は木の生長が早い、立木蓄積が高い(本州の木材密度450m3/haに対し、九州は600-1000m3/ha)、所有者の「伐る」ことに対するニーズが高いことと、森林法では伐採後植林することが定められているのに植林をしないことで経費を削っているなどの理由もある(ただし、植林をしないという判断をしているのは、森林所有者である)。
実際に現在木の伐り出しを行う林業労働者は林業事業体と雇用契約を結んでいる。いわばサラリーマンである。しかし給料は出来高制である場合も多く安定した仕事とは言えない。林業事業体は常に人手不足である。一方で離職率も高い。平均給与が200-250万円/年と低いこと、そして重大事故率が鉱業に次いで高い。事業体は前近代的な組織運営であることが多く、そのため、組織内での人間関係が悪く、コミュニケーションが不足しているところが多いことも事故率の高さの理由として考えられる。一方で木を伐る仕事は個人裁量に任される部分も多く、他産業の企業に所属して仕事をすることを比較するとやりがいが大きいとコメントする人が多く、山仕事が純粋に好きな人が多い。そのため、ある事業体を離職しても別の事業体に転職するケースが多い。
林業事業体の中でも森林組合が組織として経営合理化、淘汰されないのには理由がある。森林組合の組合員、正規職員は昔から地域に住む人々で、地域的繋がりという既得権益があることと、森林組合の管理監督は都道府県が負っているからである。行政と一連托生の構造があり、森林組合が仮に赤字体質でも、地域のために潰すに潰せないという状況が多い。国民は森林を守ることに総意として賛成で森林環境譲与税が今導入されつつあるが、明確な使い道の方向性が示されておらず、今後、補助金が国民の思いに応えるように使われることを期待したい。
道府県立の森林大学校・アカデミーが全国で増加しており、一定の流入人材があるものの、事業体に入社した後で、せっかくのやる気が失われていく例も少なくない。そこで事業体のコンサルティングを行って労働環境を改善することに現在尽力している。今までの調査の結果、問題事業体では 良い事業体に比べ、 コミュニケーション、人材育成、人事評価、職場への愛着心が低いことが分かった。そこでまず組織内の問題についてアンケートで忌憚なく語ってもらい、これを組織内で共有しながら、課題解決手法を用いて職員一丸となって自ら改善にコミットしてもらう手法をとっている。日本の林業の発展には、林業事業体で働く人が幸せになってもらうことが根底として必要である。そのために必要なのは、林業の知識ではなく、事業体経営の知識であると考えている。