木質バイオマスをこの社会でどう生かしていくか
井筒耕平さん 株式会社Sonraku代表取締役
第2回バイオエコノミー研究会 2018年11月6日
井筒さんは1975年生まれ.株式会社sonraku代表取締役.名古屋大学で環境学博士号を取得後,再生可能エネルギー導入のコンサルタントとして働く.岡山県美作市での地域おこし協力隊を経て村楽エナジー株式会社を2012年に設立.樹木などの有機物を原料にしたバイオマスによるエネルギーの供給やコンサルティング,ゲストハウスの経営など多方面で活動されている.
お話の概要
起業の動機
コンサルタント業を辞めて地域おこし協力隊となったのは,現場のしんどさがわかる実践者となりたかったから.現在は国がエネルギー基本計画を作成しているが,もっと地域で考える必要があると思っている.現在農山村への主な資金流れは交付金や年金だが,これらがエネルギーが購入に費やされており,つまり農山村は消費者化している.逆にものやサービスを都市に供給するビジネスこそが必要で,エネルギーはその手段の1つと考えられる.
FITの問題点
バイオマスは主に発電と業務用熱利用がされている.近年大規模バイオマス発電が乱立したのは固定価格買取制度(FIT)が理由.沿岸に多く立地しているのは輸入バイオマスを利用するためである.発電規模5MWだと5万トンの木材が必要で輸入に頼らざるを得ない.FITは本来地域で未利用の木材の利用促進を趣旨としたはずなのに輸入バイオマスによる発電が進んでいるのは政策的な問題である.間伐材(未利用木材)による発電の買取は40円/kWh.これに対し一般木材による発電の買取価格は24円/kWhである.問題点は以下の通り.
1.製材端材が一般木材枠になので売電単価が安く利用が進まず.単価の高い未利用木材枠を狙って山から切り出した丸太がばかりを破砕してチップやペレットにされており、本来利用すべき製材端材の利用が進みづらい.
2.海外から輸入された木材がやはり一般木材として扱われること(パーム椰子がらなど高カロリーで使いやすい).
3.熱供給に対するインセンティブがない.木材は燃やしてもエネルギーへ転換できるのは2割.残り8割の熱を利用促進する制度的枠組みがない.ドイツでは2012年から熱電供給でないとFIT対象外である.
バイオマス利用の進むべき方向
住宅へのバイオマス熱供給を目指すべき.ヨーロッパでは住宅へ熱供給がバイオマス利用のの38%を占める.一方発電は6%を占めるだけ.個人的には農山村に集合住宅を増やしそこでのバイオマス熱供給を目指すべきだと思う(個人宅より高効率).再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力とバイオマスには大きな差がある.太陽光パネルは大量生産が可能で限界費用がゼロに近い.一方バイオマスは大量生産できず,発電方法も地域毎に個別で前近代的.ヨーロッパでは燃料の大量生産まではできている(チップ化,乾燥).
西粟倉村
西粟倉村は面積が57km2,林野率95%,人工林率80%(スキ,ヒノキ)で人口1,500人の小さな自治体.自治体職員が30名程度.NPO,ベンチャー的なスピード感がある.自治体職員として地元住民と移住者を公平に扱ってくれる.2006年から2018年までの12年で33社が起業.社長のうち2割ぐらいが地元の人.起業者は事業として結果を出すことが最優先課題であり,地域への貢献(地域資源の有効活用,合意形成への参加,地域,定住)を求められわけではない.
株式会社sonraku
正社員7名,従業員21名.バイオマス事業と宿泊業(西粟倉と豊島)を営んでいる.どちらも地域のニーズに応じて始めた.
Sonrakuのバイオマス事業.
西粟倉村では村役場が委託方式により林業経営を行っている.施業でA,B,C材が出てくる中でC材の利用法としてバイオマス事業が始まった。4mのC材から1mの薪を年間1000トン作っている。熱供給が事業内容でボイラーなど施設への出資は自社では行っていない.現在はバイオマスの熱利用のみを業務としている.発熱量を計器で計り,課金している.材料の丸太は,そのまま1年乾燥させて含水率40%にする.薪にしてからラックで乾燥させ最終的に含水率が30%程度となる.温泉での熱供給は灯油と薪を併用しているが,薪代替率は80%を達成している.冬積雪により薪の乾燥が十分でないことで出力が落ちる.西粟倉では地域熱供給システムの熱供給も始めた.
バイオマス事業の課題
バイオマス発電プラントが大量のC材を買いつけるので,仕入れ値が高くなってしまう.一方熱供給は灯油と競合するので売価は発電の1/4にしかならない.Sonrakuの経営においてバイオマス事業が中心にもかかわらず収益への寄与が小さい.積雪と低温で乾燥が進まない冬季の運用が厳しい.
これからやりたいこと
西粟倉における住宅の断熱高気密化と再エネ化,集合住宅におけるバイオマス熱利用,木質バイオマスガス化発電,新電力,ローカルベンチャー育成に取り組んでいきたい.
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長野の感想
Sonrakuの事業の多様さは井筒さんの実践者としての姿勢を体現している.熱供給と利用者双方の観点を持つ会社だからこその独自の視点を持っておられた.お話からバイオマスの利用は地域によって個別のデザインが必要であり,人手を要することがよく分かった.地域の雇用創出とういう観点では,非常に効果が高いともいえる.エネルギーセクターは安定供給が求められる上に化石燃料との価格競争が激しいため日々のご苦労は大変なことと思った.地産地消が我々が素直に思うような合理性を持つためには,化石燃料の価格が現在まだ安すぎるともいえる.一方FITによる大型バイオマス発電はバイオマスの潜在力を十分生かしているとはいえず,かつ補助金により低級間伐材の市場を歪めている点は問題である.