バイオエコノミー
生物多様性ビジネスの最前線

生物多様性ビジネスの最前線

藤木庄五郎さん バイオーム代表取締役

1988年生まれ.2012年3月京都大学農学部卒業

2017年3月京都大学大学院博士号(農学)取得

2017年5月(株)バイオーム設立,代表取締役

第3回バイオエコノミー研究会 2019年5月16日

 

藤木さんは京都大学農学研究科の博士課程において,衛星画像解析により生物多様性を定量評価する研究に取り組んでいた.そのため2年にわたりインドネシア・ボルネオ島の400カ所を超える地点で自ら植生調査を行った.調査中,パームヤシのプランテーションのために360度見渡す限り熱帯雨林が皆伐された風景に圧倒される.経済の力の恐ろしさと人類の生存の危機を直感した.研究成果は学会でも高い評価を受けたが,博士取得後研究者ではなく起業の道を進んだ.生物多様性を守るには経済を動かす仕組みが必要と考えたからだ.

人類の活動によって約100万種の動植物が絶滅危機にさらされていると警告する報告書を「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)は先日発表した.生物多様性保全は国連の環境部会にもなっているが(UNCBD),排出権取引などの気候変動対策の進歩に対し,生物多様性保全には有効な制度が構築できていない.その一因として生物多様性が定量評価できていないこと,認証できていないことを藤木さんは問題視している.大規模開発の際には環境アセスメントが行われる.その際に希少な生物が見つかると調整がなされるが,そもそも計画が立ってから環境アセスメントが行われるという順序にも問題があると藤木さんは考える.日本,世界津々浦々の生物多様性があらかじめ定量的に把握できていたら開発行為そのものが変わる可能性を持つ.そのために生物多様性のビッグデータを構築することをバイオーム社は業務とする.

2019年にバイオーム社が公開したスマホアプリ,バイオームは生き物や植物を写真に撮り,その場所を登録することでポイントを獲得するリアルな生き物版のポケモンである.分からない生き物は写真を撮るとアプリが自動判別してくれる.一方でバイオーム社側のデータベースには各地の生物の情報が蓄積され,時間を経るとともにその情報は豊かになっていく.情報の収集元はアプリに限らず既存の生物調査結果やインターネット空間の全域に及ぶ.

バイオーム社は2017年5月に志を共にした京大農学部・農学研究科の仲間と起業した.技術開発はすべて自分たちで行ってきた.会社の理念に共鳴して社員が増えており,2018年には経済産業省よりJ-startup企業に認定された.

自動画像認識が写真だけでなく動画に進化すれば生物の調査の定量性が大きく変わっていく.定点カメラ,ドローン,水中ドローンを活用して生物を広域で調査できるようになる.ビッグデータだけでなく,生物調査のソリューションを提供していくことをバイオーム社は目標としている.

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長野の感想
とにかく藤木さんの目標の高さに驚愕し,感銘を受けました.近未来の生物資源管理の姿を垣間見させてもらいました.バイオーム社の活動を通じて生き物好きの人々が増えてくれればよいなと切に思います.