バイオエコノミー
The Bioeconomy Approach: Constraints and Opportunities for Sustainable Development

The Bioeconomy Approach: Constraints and Opportunities for Sustainable Development

Professor Udaya Sekhar Nagothu
Research Professor and Director (Centre for International Development)
Norwegian Institute of Bioeconomy Research

第4回バイオエコノミー研究会 2019年10月31日

 

著書The Bioeconomy Approach: Constraints and Opportunities for Sustainable Developmentの出版準備中.最近の動きのレビューから要点を紹介していただきました.

  • 1850年以降産業革命が波及して拡大した化石燃料経済は今までにない人口増加と都市化をもたらした.貧困が世界人口の40%から10%に削減された一方,気候変動,生物多様性の喪失,砂漠化その他の環境問題が頻出することなった.
  • 2030年までの10年で世界的に中流層は20億人増加すると見込まれている.持続可能な開発目標(SDGs)が2030年に向けて設定されたが,バイオエコノミーなど新しい経済パラダイムを導入しないと達成は難しい.
  • バイオエコノミーの定義:EU(2012)によれば,再生可能な生物資源を製造すると同時に廃棄物を付加価値を持つ製品,例えば食品,資料,繊維などの生物的製品やエネルギーに転換することを指す.
  • バイオエコノミーは増加する世界人口の食料,水,エネルギー,素材に対する需要に応えることができるのか:透明性を確保しつつ,生態系,社会的,経済的持続可能性を追求するなら積極的な方法論となるだろう.一方で企業や産業が自らの目的の達成のためにバイオマス資源の利用を増加させるだけという批判的な見方もある.
  • Circular Economy:近年EUで主流になりつつあり,Circular bioeconomyという言葉も見られるようになった.資源利用効率を高め,廃棄物を減じ,栄養の循環を促し,よりよい生活のための基礎サービスと適正な仕事へのアクセスを増やすもの. (Kalmykova et al., 2018; Su, et al., 2013).   一方で少々概念的であるという批判もある.
  • バイオエコノミーの主な駆動力:人口増加と需要増加,気候変動,食料安全保障である.途上国では食料需要と(産業の)経済的な需要が主要な一方,先進国では温暖化ガスの削減,負の環境影響の低減が課題である.
  • バイオエコノミーの成功要件:生物資源が十分にあること,適正な技術があること,投資が継続すること,熟練技術者が確保できること,利害関係者の協調があること,法規制が整備されること,貿易が容易なこと,政策的な下支えがあること.
  • バイオエコノミーのもたらす利益:環境負荷の削減,生態系サービスの維持,炭素排出の削減,雇用の創出,農村振興(女性,若者),新製品,新市場,生物資源の効率的使用.
  • 制限とリスク:バイオエコノミーは持続可能性が自明でない.EUにおいても環境の持続可能性は挑戦としてとらえられ,目標にはなりえない.EU外ではバイオエコノミーの経済的,商業的な成功が優先され,環境持続可能性が優先的ではない.経済,社会,環境のバランスのとれた追求の欠如.負の影響の越境問題,SDGs自体にも目標間に競合がある.
  • EUでのバイオエコノミーの進展:2009年にOECDがバイオエコノミー戦略を策定.2010年にドイツが初めて国家研究戦略を発表.2012年にEUとして戦略策定.H2020研究プログラムでバイオエコノミーが課題となる.2015年ECはCircular Bioeconomy計画を発表.
  • EUでの現状:バイオエコノミーの経済規模は年間2兆ユーロ規模.2千2百万人の雇用.EUの雇用全体の9%.今後も伸びが期待されるが,熟練技術者の養成が課題.Knowledge based bioeconomy (KBBE)により研究の優先課題が形成されている.オランダ,フィンランドなどの国が独自のバイオエコノミー戦略を策定した.
  • ノルウェーのバイオエコノミー戦略:環境,社会,経済の全てに配慮.廃棄物をゼロにすることが目標.成果は5つの軸で評価される.自然資源の持続可能な利用,技術的な革新,環境への貢献,社会への貢献,ビジネスモデルとしての革新性.
  • アジアでの展開:バイオエコノミーは新課題.マレーシアとタイが国家戦略を策定.技術・研究分野の省に管轄されていることが多く,産業間の連携がないのが課題.熟練技術者の不足が制限要因.
  • 日本:バイオマス利用促進基本法(2009),2012年バイオマス産業化戦略,2019バイオ戦略策定.
  • アフリカ:南アフリカは2013年にバイオエコノミーの開発計画を策定.ウガンダ,ケニア,タンザニア,モザンビーク,マリ,セネガル,ナイジェリアが関連戦略を策定.経済がバイオマス中心であるが,バイオエコノミーに関する率先があまりない.
  • バイオエコノミーの持続可能性指標:ローカル・エコロジカル・フットプリント,生態系サービス維持,SDGs,Rural Development Indicators,全体経済への貢献と雇用創出,HDI
  • 今後の発展の必要条件:技術革新と研究が重要.インフラ整備と投資,機能的な市場の創出.バイオエコノミーの目標を持続可能性とすること.健全な生態系サービスの維持こそがバイオエコノミーの基盤となる.